ウクライナ危機に、左派政党はどう反応したか

224日、ロシアがウクライナに侵攻を開始した。現時点では戦争がどの程度の規模になるかは見通せないが、冷戦後の国際秩序の重大な転換点になることは間違いないだろう。報じられている現地の惨状を画面越しに見るだけでもやるせなく、気持ちが重い。一刻も早い事態の収束を祈りたい。

 

さて、今回の危機に際して、日本のいわゆる左派政党にあたる日本共産党社会民主党、れいわ新選組がそれぞれ異なるスタンスをとっていたので、記録として残しておこうと思う。

私は、これら3つの政党は人権・平和を守る政党だと認識していた。従ってロシアのウクライナ侵攻危機にあたり、これらの政党には「侵略を絶対に許さない」「平和を守れ」という断固とした声を上げてほしかった。共産党はその期待に応えてくれたが、残念ながら、社民党とれいわ新選組には失望せざるを得なかった。

 

ロシアを非難した共産党、米露双方に責任があるとした社民党

共産党は開戦にいたるまで一貫してロシアに厳しい姿勢を示し、軍事威嚇を止めろと言い続けていた。私は共産党の支持者ではないが、これはさすがだと思った。

ロシアは軍事威嚇をやめよ――国際社会は外交的解決に力をつくせ(2月12日)

ロシアはウクライナ東部地域の「独立」承認と派兵指令を撤回せよ(2月22日)

ウクライナ侵略を断固糾弾する ロシアは軍事作戦を直ちに中止せよ(2月24日)

特に称賛したいのが2月12日の声明のこの部分である。

ロシアが隣国ウクライナとの国境沿いに10万以上と見られる大軍を展開し、さらに隣国ベラルーシで合同軍事演習を開始するなど、国際的な緊張が高まっている。ロシアはNATO北大西洋条約機構)の東方拡大の中止を求めているが、それはこうした行動を正当化する理由にはならない。自国領土内であっても、明白な軍事圧力である。ロシアはこのような軍事力による威嚇をただちに止めるべきである。

今回の侵攻の理由として、「ロシアは安全保障上の懸念があり、隣国ウクライナNATO加盟が認められなかったのだ」ということがよく言われる。それはそうなのだろうが、だからといって軍事力で隣国を脅しをかけてよいなどという話にはならない。当たり前のことである。

共産党は、NATO加盟の件はロシアの軍事威嚇を正当化しないと、早い段階で明言していた。さすがに過去にソ連や中国の干渉に苦しんできただけあり、共産党はロシアの覇権主義的な行動に極めて敏感だった。

この点で、社民党が27日に発表した談話は残念な内容だった。

現在米ロ両国間の交渉に進展が見られないのはロシア側がこれまで提案している要求の中心である①ロシアに対する安全の保障②ウクライナジョージア北大西洋条約機構NATO)加盟中止の2点に関し、米国が一切考慮しないことが主な原因となっている。米国が仮にカナダとメキシコでロシアの軍事演習が始まったら米国がどのような安全保障上の懸念を有するか自明である以上、米国はロシアの懸念を無視してはならない。

これを読んで暗澹たる気持ちになった。問題を米国とロシアという大国の綱引きとだけ捉え、ウクライナの独立国家としての主体性や意志を無視する内容だったからだ。これはウクライナの運命はアメリカとロシアが決めることだ」と言っているも同然であり、覇権主義を是認する考え方である。弱い者の立場に立つ政党、護憲・平和の党といわれる社民党が、このような談話を出すとは思わなかった。

この談話では、ロシアの安全保障上の懸念には理解が示されているが、一方でウクライナの安全保障上の懸念はほとんど考慮されていない。この時点ですでにロシアはウクライナの国境近くに10万以上の大軍を展開し、軍事力でウクライナを威嚇していたにもかかわらずである。

「カナダやメキシコでロシアの軍事演習が始まったら米国はどう思うか」などと言う前に、「ベラルーシでロシアの軍事演習が始まったらウクライナはどう思うか」となぜ言えなかったのか。まさにその時、大規模なロシアの軍事演習が始まろうとしていたのに。

なお225日の社民党の談話では、この立場が修正され、いかなる理由があろうとも、主権国に軍事力を行使することは国際法に違反し、断じて認められないという妥当な内容になった。このことは評価したい。

 

国会決議に反対したれいわ新選組

れいわ新選組は、2月8日に国会で採択されたウクライナを巡る憂慮すべき状況の改善を求める決議」に反対した。

反対理由はWEBサイト上で詳しく説明されている。

reiwa-shinsengumi.com

これを読んで私はひっくり返った。れいわ新選組の認識が、あまりに私の認識とかけ離れていたからである。

この状況で、
なぜ特定の国家を非難する内容と読める決議が好ましくないか。

大きく分けて2つの対立する勢力の、
どちらかに加勢する立場を日本が取れば、
ロシアと対立するもう一つの側とみなされる。

対立する勢力、その双方に中立の立場から
自制を求めたり交渉役を担うことができなくなってしまう。

この主張には首を傾げざるを得ない。

そもそも日本は西側陣営の国である。しかし、ここには日本が西側の一員だという認識が見られない。あたかも日本が中立国として振る舞うことが可能であるかのような前提で話が進められている。いったいどうしてアメリカと軍事同盟を結んでいる日本が、この問題で中立の立場をとれるのか。日本は最初からNATO側なのだ。

れいわ新選組が、共産党のように将来的に日米安保条約を破棄し、非同盟主義をとることをめざしているというなら、まだ話はわかる(賛成するかどうかは別にして)。しかし、れいわ新選組の外交政策にはそう明示されていない。「日米間のこれまでの密接な関係は維持」「日米友好の前提のもとで、アメリカ追従の外交政策の脱却を行います」という曖昧なことが書かれているだけである。

れいわ新選組日米安保条約を将来的にどうするつもりなのか。あまり深く考えていないのか、それとも意図的にぼかしているのか。どちらにしても不誠実な態度である。

そして、れいわ新選組は中立の立場にこだわるあまり、国会決議から「ウクライナの主権と領土の一体性を一貫して支持」という部分の削除を働きかけるという、信じられない行動をとった。

①我が国は、ウクライナの主権と領土の一体性を一貫して支持している。そして、同国の民主化・自由化を推進し、地域の平和と安定に寄与するために、G7をはじめとする国際社会と協調しつつ、同国に対する支援を行ってきている。

 

①の部分の削除を求めた理由について
この決議文をそのまま読めば、中立な立場を語っているようにも見えるが問題がある。
G7」の中にはもちろん、ロシアはいない。
ウクライナ危機をきっかけに、
G8からロシアが外れた経緯に思いを至らせなければならない。

G7とともに」と強調することで、
このウクライナ問題で、ロシアを敵対する勢力に位置付ける意図が透けて見える。
このパートは
日本が欧米と足並みをそろえロシアに対峙する姿勢が色濃く示されている。

ここでも日本が西側の一員であるという認識がすっぽり抜け落ちているが、百歩譲って、上記のような理由なら「G7をはじめとする」という9文字だけを削除するという方法もあったはずだ。なぜ文章全体を削除しようとしたのか。おそらく「ウクライナの主権と領土の一体性を支持し、同国への支援を表明する」ということ自体が中立的ではないと考えたのだろう。

この考え方は危険な領域に足を踏み入れている。現在の国際秩序は、独立国家の主権と領土を侵してはならないという大原則のもとに成り立っている。この原則が守られなければ、国際秩序は崩壊し、世界は力のあるものが支配する無法地帯になってしまう。だから仮にウクライナの政権に何らかの問題や過失があったとしても、現在の国境線を武力で覆すなどということがあってはならない

もしれいわ新選組が、共産党のように「覇権主義は許さない。独立国家であるウクライナの主権は尊重しなければならない」という原理原則を持っていれば、「ウクライナの主権と領土の一体性を一貫して支持」という一節は決して削ってはならないということがわかったはずである。れいわ新選組には、国際秩序と法の支配についての基本的な認識が欠けているのではないか。

開戦後の大石あきこ議員(れいわ新選組)の発言を見ても、この認識を持っているのかどうか怪しい。

国境を越えた民衆の連帯が大切なのは言うまでもない。しかしこれだけ明白なロシアによる侵略が始まった後でも、「主権侵害」「力による現状変更」「国際法違反」といった言葉はなく、ウクライナの立場を支持するということも明言されていない。

要するに、れいわ新選組ウクライナの背後にアメリカがいると見ており、今回の件はロシアとウクライナの国家間の争いではなく、2つの大きな勢力の争いと捉えているのだろう。そういう見方をするのは自由だが、それに固執するあまり、独立国家の主権侵害の問題がどこかに飛んでいってしまった。これは現在の国際秩序と法の支配を軽視するものであり、拙劣な考え方であると思う。

 

れいわ新選組は、2月24日の侵攻開始後、まだ公式の見解を発表していない。

来週3月1日に、新たなロシア非難決議が国会で採択されると報じられている。れいわ新選組が、ロシアの非人道的な侵略行為を受けてこれまでの立場を修正し、この決議に賛成するかどうかに注目している。

 

(3/2追記)

れいわ新選組ロシア非難決議に反対した。支持者の間でも大きな波紋が広がっており、この党の消長に影響を及ぼすことになるかもしれない。